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読み古し「紙表紙本」の倉庫的Blog
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Mon - August 30, 2010

One time art...


まずは訂正を一件。7月22日付けエントリ で「SFは、目で(も)楽しむ文学」として「数ある文学賞の中でもアーティスト部門を設けているのはヒューゴー賞だけ」としたのだけれど、その後、かのエドガー賞にもかつてBook Jacket Awardなるカテゴリーが存在したことが判明(1955-1975)。賞の名称には「jacket」(日本風に言えば「カヴァー」。一方、英語で「cover」と言えばペーパーバックなどの「表紙」を指す)とありますが、MWAのThe Edgar Awards Database で歴代受賞作(受賞「者」ではない。なぜか肝心要のカヴァーアーティスト/デザイナーについての記載はなし。てゆーか、作者の名前すらないんだよね)を検索するとペーパーバックも対象となっているので、広く本の装丁を対象とした賞と考えればいい模様。

で、本日のエントリの“主役”はこのエドガー賞のBook Jacket Awardを1973年に受賞したThe Fetish Murders(by Avon Curry, Ace Books)——ではなくて、そのカヴァーアートを担当した(と目される)Joseph Lombarderoというアーティスト。なるほど、The Edgar Awards Databaseにはカヴァーアーティストの記載はないけれど、本にはあるんだね? ところが、実は本の方にも、カヴァーアーティストについての記載は一切なし。じゃあ、何でJoseph Lombarderoの仕事だと分かるの? それが、つまり、前回のエントリでもチラリと触れた「独自の『鑑定』」てやつで。


まず、話の順序として、前々回のエントリ に戻りたい。取り上げたのは、Tom Adamsというイギリスのアーティスト。一般にその存在を知られるようになったのは、John FowlesのThe Collector (Jonathan Cape, 1963)のカヴァーイラストレーションによって。しかし、その名声を決定づけたのは、Fontana Booksから刊行されたAgatha ChristieのPBシリーズのカヴァーアート(第1号は1962年のA Murder Is Announced)。その後、アメリカでもPocket BooksやBantam BooksがAgatha ChristieのPBシリーズにTom Adamsのイラストレーションを採用。遂にはTom Adams' Agatha Christie Cover Story(Dragons World, 1981)なる一書まで上梓。“The Agatha Christie covers painted by Tom Adams constitute probably the most famous examples of paperback art ever produced.”という公式サイト のフレーズもあながち手前味噌とも言えない所。

それと、ほぼ同じ時代。アメリカのDell Booksから刊行されたAgatha ChristieのPBシリーズのカヴァーアート。そのクオリティの高さから、当然、これもTom Adamsの作品に違いない——そう、思っていたのだけれど、本のどこを見てもカヴァーアーティストについての記載がない。ならばと、いろいろGoogleにお伺いを立ててみるのだけれど、このDell版のAgatha ChristieのカヴァーアートがTom Adamsの作品であると言う確証はなかなか得られない。うーん、もしかしたら、違うの? 確かに、Fontana版とはやや作風が異なる印象も。とは言え、このクオリティの高さ。仮にTom Adamsの作品ではないとしても、さぞや名のあるアーティストの仕事には違いない——そう、当りをつけて、さらに検索をつづけるのだけれど、一向に目ぼしい情報には出会さない。

やむなく、一旦、このPBシリーズの「鑑定」を断念、次の「鑑定」に移ったのだけれど(実は、私が要「鑑定」と見做しているカヴァーアートは相当数ある)、そのひとつ、Peter DickinsonのThe Sinful Stone (Ace Books, c. 1970)。この本のカヴァーには「J.L.」という署名があるのだけれど、手がかりはこれだけ。例によって(?)裏表紙や奥付には何のヒントもない。しかし、心配は御無用。今やわがPWのデータベースには394人にも上るカヴァーアーティストが登録されている(エヘン)。その内、イニシャルが「J.L.」の人物はと言うと——Jerry LoFaro, Jody Lee, John Lakey, John Linder, J. Lombardero。

この5人が手がけたカヴァーアートをThe Sinful Stoneと見比べて行くと——あ! これだ。Sax RohmerのThe Quest of the Sacred Slipper(Pyramid Books, 1966)。カヴァーアートはJ. Lombardero。斑模様の暗鬱な背景。手首や髑髏、凶器など特徴のあるモチーフを中央でコラージュ風に組み合わせた構図。間違いない。このふたつは同じアーティストの作品——と、そう思い至った瞬間、霊感が閃いた(大袈裟だねぇ)。Dell版のAgatha Christieのカヴァーアートも全く同じような斑模様の背景、モチーフ、構図。たとえば、13 at Dinnerなんて、どうよ? The Sinful Stoneを眼の前にしただけではインスピレーションは働かなかったんだけれど、これにThe Quest of the Sacred Slipperが加わった瞬間、ビビッ。さらに——えーと、だったら、あれは? そうだ、あれも。もう、見つかる見つかる。

このJ. Lombarderoって、何者? 勢い込んで検索してみるのだけれど、これまた、目ぼしい情報にはとんとお目にかかれない。ちょっとこんなことは珍しいんだけれどねぇ。ともあれ、そんなないない尽くしの中、かろうじて探し当てたのがACE IMAGE LIBRARY なるWEBサイト(なぜかノースカロライナ大学ウィルミントン校のMichael S. Smith教授が管理運営。専攻は地質学のようなんだけれど。単なる趣味?)にあった次のような記述。どうやらこのJoseph Lombarderoというのがそうらしい。
JOSEPH LOMBARDERO (1922 - 2004) was born in Tampa, Florida and won an art scholarship and studied design at the Ringling School of Art in Sarasota, Florida. After World War II, he moved to New York (1948), where he worked for Sudler & Hennessey as an illustrator specializing in pharmaceutical illustrations. During the 1960's he illustrated several books in the Time-Life Science series as well as record jackets for RCA, Capitol, Camden and EMI, primarily for classical and jazz albums. Lombardero illustrated for Dell, Popular Library, Pyramid, Jove, Trident, Harper & Row, ACE, and others. He received the Edgar Allan Poe Award for "Best Mystery Book Cover."
へえ、エドガー賞にも“Best Mystery Book Cover”なんてカテゴリーがあったんだ(ただし、正しくは“Book Jacket Award”だった訳だけれど。固有名詞の記述は正確にお願いしたいもんだネ)——と、ここで冒頭の話に戻る訳だけれど、それならばと、例の作者もカヴァーアーティストの記載もないThe Edgar Awards Databaseの歴代受賞作をタイトルと出版年だけを頼りにひとつづつ確認して行くと——そう、その結果、遭遇したのが、1973年の受賞作、The Fetish Murders。もうJ. Lombarderoの作品としか思えないmacabreな雰囲気を濃厚に漂わしておるではないか!

さらに、決定的な情報がある。2004年に亡くなったJoseph Lombarderoの遺品を管理・販売しているWarren-Roth Gallery なるeBayショップのカタログに何とこのThe Fetish Murdersの原画があるのだ! ちなみに、なぜこの店がJoseph Lombarderoの遺品を管理・販売していることを知っているかと言うと、問い合わせたんだよね、メールで。いろいろ検索していたら、この店がJoseph Lombarderoのoriginal paintingを販売していることが判明。さらには、ACE IMAGE LIBRARYのものよりさらに詳しいプロフィールも掲載(多分、ACE IMAGE LIBRARYのプロフィールはこちらのものを転載)。ここは、情報提供をお願いするしかない。で、快く応じていただいたその答え——
We are handling the estate for Joseph Lombardero and have almost all of the illustration board paintings for the book covers he created. We have more than 200 of his covers still left, but didn't want to sell them all at once, so that we did not flood the market. (...) He did quite a lot of covers, for a variety of publishers, but they were always considered "one-time art" so are not always labelled clearly for which book title.
ふーむ、“one-time art”かあ……。同じ時代、大西洋をはさんで同じAgatha ChristieのPBシリーズを舞台に一目でそれと分かる独自の世界を紡ぎだしたふたりのアーティスト。一方はTom Adams' Agatha Christie Cover Storyなる一書まで献上され、“The Adams and Christie styles were deemed a perfect match.”(同書ジャケット折り返し)等々、引用する賛辞には事欠かない状況。他方、Joseph Lombarderoの方はと言えば——。今日現在、私がJoseph Lombarderoの作品 と「鑑定」した在庫は23冊22タイトル。この内、J. Lombarderoと記載のあるものが3点、なぜかJoseph Lambarderoと記載されたものが1点。イラストレーションにJ.L.とサインされたものが2点。Dell版のAgatha ChristieのPBシリーズはと言えば——すべて「描き人知らず」……。

Posted at 09:50 AM   |
Tue - August 24, 2010

Judge a book by its cover...


見るSF大百科(Encyclopedia of Science Fiction)に触発され、1,391冊のペーパーバックのカヴァーアーティストの名前をせっせとデータ入力(8月24日現在。最初にデータベースを更新した7月22日段階から113冊増。この中には、独自の「鑑定」に基づいてカヴァーアーティストを特定したものも。その経緯については、いずれエントリを改めて)。ペーパーバックのカヴァーアートなるものにここまで執着するからには、当然、次はこれ——そう、PAPERBACK COVER ART GALLERY



実は、この種のもの、かつても公開したことがあるのだけれど、短期間であえなく閉鎖(VINTAGE PAPERBACK ART GALLERYは2007年6月公開、2008年4月閉鎖)。一応、ローカルマシーン上にはアーカイヴとして残っているんだけれど——ま、当時のスキルではあれが精一杯だったのかな(何しろ、まだAjaxという単語すら知らなかったンだ)。今回はSmoothGallery というAjax用のライブラリを使用、スライドショー形式を実現。他にもJavaScriptのonmouseover/onmouseoutを使った文字表示とかCSS(スタイルシート)による垂直中央表示とか(これが結構難しい。ちなみに、前者はこちら 、後者はこちら を参考にさせていただきました。Thanks a lot!)。

てなわけで、あのflickrのクールなスライドショー(たとえばコレ )にも負けない(?)ヴィンテージ・ペーパーバックのカヴァーアートをめぐる巡礼。ここで野田大元帥の有名な台詞(「SFはやっぱり絵だねぇ」)を捩るなら「ペーパーバックはやっぱり表紙だねぇ」……。

Posted at 02:31 PM   |
Wed - August 11, 2010

Own up...


Come on now, Tom, own up! そう、机を叩いて(?)自供を迫ったのは、スコットランドヤードのブランド警部——ではなくて、その生みの親であるジュリアン・シモンズ(Julian Symons)。一方、この元CWA会長でもある鬼警部(だから、違うって)と机をはさんで相対するのがトム・アダムズ(Tom Adams)容疑者。職業:イラストレーター。容疑は……。ま、ともあれ、以下、Tom Adams' Agatha Christie Cover Story(Dragons World, 1981)より、Three Act Tragedy(米題Murder in Three Acts)のカヴァーイラストレーションをめぐる両者のやりとり——

THREE ACT TRAGEDY
(U.S.) MURDER IN THREE ACTS


JULIAN SYMONS
Or, as you might say, a three card trick, with a nicotine-laced cocktail as the deadly ace of spades. Stephen Babbington, a harmless clergyman with absolutely no enemies, takes a cocktail before dinner ("I think that my wife will allow me to have one", he says with a gentle laugh) and is dead within minutes. As Hercule Poirot discovers, none of the other guests could have been sure that Babbington would take the poisoned drink. Was somebody else the intended victim?
This has always seemed to me a much underrated book. Its deliberately theatrical quality is not accidental, and the baffling puzzle is in some ways a trial run for The ABC Murders. The Adams cover is a most accomplished piece of painting, but it doesn't have much to do with the book. Come on now, Tom, own up!

TOM ADAMS
I shall own up to an important error in this painting but not to the main charge—that my painting is irrelevant. The glass in question is not Stephen Babbington's cocktail glass, but Sir Bartholomew Strange's port glass. Both the poisoned glass of port (responsible for the death of Sir Bartholomew Strange) and the rose (the poison used is nicotine, an alkaloid extracted from a rose spraying solution) either directly or indirectly relate to the story.
But here I humbly admit my grave error. It is fundamental to the murder technique that the glasses used to administer the poison were cut glasses and mine is a plain port glass.

最早逃れられぬと観念したか、アダムズ容疑者は自らが担当したカヴァーイラストレーションが本文の内容に照らして不適切(irrelevant)であったことは認めているのだが——ちょっと待った、冒頭の“I shall own up to an important error in this painting but not to the main charge”って、どーゆーこと? もしや、容疑者は、容疑の一部は認めたものの犯行の核心部分(main charge)については供述を拒否するという“半落ち”状態? うーむ、ことの真相を探るためには、まずは問題のカヴァーイラストレーションを確認しないことには話になるまい。で、下がそれ。Tom Adams' Agatha Christie Cover Storyで紹介されているオリジナルとそれをあしらったブックカヴァー(同率で縮小)……なんだけれど、あれ? 作者の名前が……それに、タイトルも……第一、これ、フランス語……?

Tom Adams' Agatha Christie Cover Story
La Chere Emma

そう、右はフランスのClub des Masquesというペーパーバック叢書から1970年に刊行されたE. C. R. LoracのLa Chére Emma(英題はCase in Clinic)。何と、Tom Adams' Agatha Christie Cover Storyで紹介されているThree Act Tragedyのカヴァーイラストレーションと瓜二つ——なんてもんじゃなくって、若干の色調の違いを度外視すれば、もう完璧に一緒。どうやらアダムズ容疑者はLa Chére Emmaのために描いたイラストレーションをThree Act Tragedyのために転用した模様(まさか、La Chére Emmaは人様の作品で、Three Act Tragedyはその完全コピー、なんてことはないよネ? Tom AdamsがClub des Masquesのために何点かカヴァーイラストレーションを提供していることは確認できております。ハイ)。うーむ、別のミステリのために描いたイラストレーションを転用したのならばその表現が“不適切”なのも当然(絶句)。

でも、なんでこんなことしたんだろう? ひょっとして、この当時、トム・アダムズは“妖怪いそがし ”に取り憑かれていて、つい〆切に追われ……などと考えながら前掲書を眺めていたら、Virgil Pomfretなる人物(Tom Adamsの代理人を務める美術商の由)による前書きにこんな一節が——A stickler for detail, he is seldom satisfied with any finished result and sometimes, as the observant viewer may notice, he will continue to work on a painting even after it has been printed and has appeared on the bookstalls. へえ。そう思って、改めてふたつのイラストを見比べると——うーむ、この色調の違い(あと、もう一点、違いがあるんだけれど、分かる?)。もしかしたら、トム・アダムズは、Club des Masques版の出来が不満で、あえて旧作の転用(使い回し)という非難を覚悟の上で、もう一度、完璧な状態で世に出すことを選んだ……?

Posted at 10:32 AM   |
Sat - August 7, 2010

Princess vs. Princess...


ハハハ。ここまで念押しされれば納得するしかないネ……。野田昌宏「『ツムラ・コレクション』訪問記」(『SFマガジン』1996年3月号)でも推奨されているThe Fantastic Art of Boris Vallejo(Ballantine Books, 1978)を入手。その冒頭、いきなり、こう来ちゃいます——
Within a few brief years, Boris Vallejo (pronounced Val-YAY-hoe) has established himself as one of the foremost fantasy artists. His work, signed simply "Boris," has delighted countless lovers of the fantastic—as well as many who might never otherwise enjoy fantasy.
Val-YAY-hoe、ネ。何となく宮沢賢治の「鹿踊りのはじまり」で「じぶんと鹿とのちがひを忘れて」つい鹿踊りの輪に飛び込む嘉十が口走る台詞「ホウ、やれい、やれい。」を連想してしまった。あと、“who might never otherwise enjoy fantasy”って、どーいう人? ファンタジー小説そのものはさて置き、「ボリス・ヴァレイホ」の描くファンタジー・アートだけは愛でる人種って……。ま、下のカヴァーを一瞥すればほぼ察しはつくと言うもの、カナ。Primeval Princessと題されたこの作品(さしずめ元祖「エロかっこいい」?)、例の見るSF大百科(Encyclopedia of Science Fiction)でも紹介。そのキャプションに曰く——
A Princess of Mars, in the tradition of Edgar Rice Burroughs. The low gravity of the planet Mars has meant a bio-genetic evolution of the thoraco-morphic area, without the need for extra pectoralis strengthning. Thus Mars, planet of war, was nonetheless planet of romance for the early sf adventures, and Burrough's John Carter of Mars met many a Princess in the red shade of the dunes.
そう、どうやらこの美女、かのエドガー・ライス・バロウズ(Edgar Rice Burroughs)の「火星シリーズ」に登場するヘリウム王国の王女、デジャー・ソリス(Dejah Thoris)、であるらしい(ただし、調べた限りでは、Boris Vallejoが「火星シリーズ」のカヴァーを担当したことはない模様。Primeval Princessと題されたこのイラストも具体的にどの作品のために描かれたものなのか——あるいは、この画集のために描き下ろされたものなのか——は不明)。とすると、わが国が誇るSF画の大家・武部本一郎が描くあのデジャー・ソリスと同一人物。うーん、どうだろう、どちらも悪くはないンだけれど、どちらかと言えば、ワタシは(やっぱり、日本人だから、ネ)……。

The Fantastic Art of Boris Vallejo
火星の美女たち
武部本一郎SFアート傑作集1『火星の美女たち』は1981年岩崎書店刊。露出度はヴァレイホ本に勝るとも劣らないンだけれど、それは中を見てのお楽しみ(特に、アモズ族の美しき虜囚、ダイアンたるや……♥)。

Posted at 11:42 PM   |
Wed - July 28, 2010

The Third...


ペルー生まれなんだそうだ。従って、母国語はスペイン語。名前もスペイン語風に「ボリス・ヴァレイホ」と発音するのがイケテルのかな? ともあれ、そのBoris Vallejo なんだけれど……かつてこの日本にその「原画の八割が収蔵されている」一大コレクションが存在したことをご存知だろうか? 場所は、東京都中央区日本橋の旧ツムラビル(現スターツ八重洲中央ビル)。その「華麗なファンタジイ空間」へ「SFM編集部を含めた総勢14名」からなる1個小隊を率いて突入(?)した「宇宙軍大元帥」こと野田昌宏氏による「『ツムラ・コレクション』訪問記」(『SFマガジン』1996年3月号)より引けば——
 津村夫妻に迎えられて展示室に足を踏み入れた途端、想像を遥かに超える華麗な空間の展開に、ただ激しく息を呑む皆の気配だけがあたりを包んだ……。
 銀座通りの喧騒からほんの壁一枚隔てて構築された素晴らしいSF/ファンタジイ空間は、めくるめく色彩の渦となって我々に迫って来る……。
この「ツムラ・コレクション」、株式会社ツムラの三代目(当時の肩書きは「会長」)が個人で収集したものを、創業の地でもある日本橋の自社ビルで公開。「個人美術館、それも外国映画などによく出て来る大富豪のコレクターが命よりも大切な収集品を自分好みの最高な環境にディスプレイして愛玩している……という、まさにあの乗り」(同)。この三代目氏、バンジョーの世界的コレクターとしても知られ、Banjos: the Tsumura Collectionなる一書も上梓。野田大元帥によれば「バンジョー、ディキシー、アームストロング……という幅広いアメリカ・ポピュラー・カルチャーの延長としてのSF空間にボリス・ヴァレイホ……というのが実に決まっている」のだとか。「な? 判るだろう?/ここにエムシュウィーラーが来たのでは違うのだ。ロバート・マッコールでもない。/まぁ、フラゼッタなら悪くないが、やはりぴたりとは決まらない。/ちょっとだけ品が良過ぎる。/どうしても、ここはボリスなのである……!」。

うーむ、エムシュウィーラー(Ed Emshwiller)やロバート・マッコール(Robert McCall)ではダメだと言う理由がイマイチよく分からないのだけれど(しかし、James Avatiでないことだけは確か。尾崎俊介著『紙表紙の誘惑』には「晩年を迎えたアヴァティが、経済的な理由から自分の所有している表紙絵の原画の一部を売却することにしたため、彼の表紙絵の愛好者の間で一種のオークションを開催することになった」経緯について紹介。その結果、著者もMyron S. Kaufmannという作家のRemember Me to God, Singet Books T1578の表紙絵の原画を入手したと言うのだけれど——その作風といい、原画流出の経緯といい、「華麗なファンタジイ空間」とはあまりにも不釣り合い)、とは言え、ものには勢いと言うものがある。「な? 判るだろう?」と問われれば、「判る、判る」と二つ返事で同調して——そう、どうしても、ここはボリスなのである(それも、「ボリス・ヴァレイホ」。まかり間違っても「ボリス・ヴァレイジョ」と発音してはイケません)……。

SFインターフェース講座 野田昌宏のもってSFしてみよう!

ツムラ事件 野田昌宏一行がツムラビルを訪問したのは1995年12月。しかし、それから一年も経たない1996年10月、株式会社ツムラでは巨額背任事件が発覚。連結子会社への不正債務保証で本社に70億円の損害を与えたとして商法の特別背任罪に問われた津村昭会長ら5人が逮捕。その後、同社は創業以来の同族経営体制を一新。創業者一族以外からはじめて社長に就任した現社長の下、津村昭会長(1976年から95年まで社長)時代に推進した多角化路線を転換、保有資産の整理にも着手。2007年には「ツムラ・コレクション」を展示した八重洲のツムラビルも売却。「売家と唐様で書く三代目」。あゝ、あの「華麗なファンタジイ空間」は、今……?

Posted at 10:23 PM   |