で、本日のエントリの“主役”はこのエドガー賞のBook Jacket Awardを1973年に受賞したThe Fetish Murders(by Avon Curry, Ace Books)——ではなくて、そのカヴァーアートを担当した(と目される)Joseph Lombarderoというアーティスト。なるほど、The Edgar Awards Databaseにはカヴァーアーティストの記載はないけれど、本にはあるんだね? ところが、実は本の方にも、カヴァーアーティストについての記載は一切なし。じゃあ、何でJoseph Lombarderoの仕事だと分かるの? それが、つまり、前回のエントリでもチラリと触れた「独自の『鑑定』」てやつで。
まず、話の順序として、
前々回のエントリ に戻りたい。取り上げたのは、Tom Adamsというイギリスのアーティスト。一般にその存在を知られるようになったのは、John Fowlesの
The Collector (Jonathan Cape, 1963)のカヴァーイラストレーションによって。しかし、その名声を決定づけたのは、Fontana Booksから刊行されたAgatha ChristieのPBシリーズのカヴァーアート(第1号は1962年のA Murder Is Announced)。その後、アメリカでもPocket BooksやBantam BooksがAgatha ChristieのPBシリーズにTom Adamsのイラストレーションを採用。遂にはTom Adams' Agatha Christie Cover Story(Dragons World, 1981)なる一書まで上梓。“The Agatha Christie covers painted by Tom Adams constitute probably the most famous examples of paperback art ever produced.”という
公式サイト のフレーズもあながち手前味噌とも言えない所。
それと、ほぼ同じ時代。アメリカのDell Booksから刊行されたAgatha ChristieのPBシリーズのカヴァーアート。そのクオリティの高さから、当然、これもTom Adamsの作品に違いない——そう、思っていたのだけれど、本のどこを見てもカヴァーアーティストについての記載がない。ならばと、いろいろGoogleにお伺いを立ててみるのだけれど、このDell版のAgatha ChristieのカヴァーアートがTom Adamsの作品であると言う確証はなかなか得られない。うーん、もしかしたら、違うの? 確かに、Fontana版とはやや作風が異なる印象も。とは言え、このクオリティの高さ。仮にTom Adamsの作品ではないとしても、さぞや名のあるアーティストの仕事には違いない——そう、当りをつけて、さらに検索をつづけるのだけれど、一向に目ぼしい情報には出会さない。
やむなく、一旦、このPBシリーズの「鑑定」を断念、次の「鑑定」に移ったのだけれど(実は、私が要「鑑定」と見做しているカヴァーアートは相当数ある)、そのひとつ、Peter DickinsonのThe Sinful Stone (Ace Books, c. 1970)。この本のカヴァーには「J.L.」という署名があるのだけれど、手がかりはこれだけ。例によって(?)裏表紙や奥付には何のヒントもない。しかし、心配は御無用。今やわがPWのデータベースには394人にも上るカヴァーアーティストが登録されている(エヘン)。その内、イニシャルが「J.L.」の人物はと言うと——Jerry LoFaro, Jody Lee, John Lakey, John Linder, J. Lombardero。
この5人が手がけたカヴァーアートをThe Sinful Stoneと見比べて行くと——あ! これだ。Sax RohmerのThe Quest of the Sacred Slipper(Pyramid Books, 1966)。カヴァーアートはJ. Lombardero。斑模様の暗鬱な背景。手首や髑髏、凶器など特徴のあるモチーフを中央でコラージュ風に組み合わせた構図。
間違いない。このふたつは同じアーティストの作品——と、そう思い至った瞬間、霊感が閃いた(大袈裟だねぇ)。Dell版のAgatha Christieのカヴァーアートも全く同じような斑模様の背景、モチーフ、構図。たとえば、13 at Dinnerなんて、どうよ? The Sinful Stoneを眼の前にしただけではインスピレーションは働かなかったんだけれど、これにThe Quest of the Sacred Slipperが加わった瞬間、
ビビッ。さらに——えーと、だったら、あれは? そうだ、あれも。もう、見つかる見つかる。
このJ. Lombarderoって、何者? 勢い込んで検索してみるのだけれど、これまた、目ぼしい情報にはとんとお目にかかれない。ちょっとこんなことは珍しいんだけれどねぇ。ともあれ、そんなないない尽くしの中、かろうじて探し当てたのが
ACE IMAGE LIBRARY なるWEBサイト(なぜかノースカロライナ大学ウィルミントン校のMichael S. Smith教授が管理運営。専攻は地質学のようなんだけれど。単なる趣味?)にあった次のような記述。どうやらこのJoseph Lombarderoというのがそうらしい。
JOSEPH LOMBARDERO (1922 - 2004) was born in Tampa, Florida and won an art scholarship and studied design at the Ringling School of Art in Sarasota, Florida. After World War II, he moved to New York (1948), where he worked for Sudler & Hennessey as an illustrator specializing in pharmaceutical illustrations. During the 1960's he illustrated several books in the Time-Life Science series as well as record jackets for RCA, Capitol, Camden and EMI, primarily for classical and jazz albums. Lombardero illustrated for Dell, Popular Library, Pyramid, Jove, Trident, Harper & Row, ACE, and others. He received the Edgar Allan Poe Award for "Best Mystery Book Cover."
へえ、エドガー賞にも“Best Mystery Book Cover”なんてカテゴリーがあったんだ(ただし、正しくは“Book Jacket Award”だった訳だけれど。固有名詞の記述は正確にお願いしたいもんだネ)——と、ここで冒頭の話に戻る訳だけれど、それならばと、例の作者もカヴァーアーティストの記載もないThe Edgar Awards Databaseの歴代受賞作をタイトルと出版年だけを頼りにひとつづつ確認して行くと——そう、その結果、遭遇したのが、1973年の受賞作、The Fetish Murders。もうJ. Lombarderoの作品としか思えないmacabreな雰囲気を濃厚に漂わしておるではないか!
さらに、決定的な情報がある。2004年に亡くなったJoseph Lombarderoの遺品を管理・販売している
Warren-Roth Gallery なるeBayショップのカタログに何とこのThe Fetish Murdersの原画があるのだ! ちなみに、なぜこの店がJoseph Lombarderoの遺品を管理・販売していることを知っているかと言うと、問い合わせたんだよね、メールで。いろいろ検索していたら、この店がJoseph Lombarderoのoriginal paintingを販売していることが判明。さらには、ACE IMAGE LIBRARYのものよりさらに詳しいプロフィールも掲載(多分、ACE IMAGE LIBRARYのプロフィールはこちらのものを転載)。ここは、情報提供をお願いするしかない。で、快く応じていただいたその答え——
We are handling the estate for Joseph Lombardero and have almost all of the illustration board paintings for the book covers he created. We have more than 200 of his covers still left, but didn't want to sell them all at once, so that we did not flood the market. (...) He did quite a lot of covers, for a variety of publishers, but they were always considered "one-time art" so are not always labelled clearly for which book title.
ふーむ、“one-time art”かあ……。同じ時代、大西洋をはさんで同じAgatha ChristieのPBシリーズを舞台に一目でそれと分かる独自の世界を紡ぎだしたふたりのアーティスト。一方はTom Adams' Agatha Christie Cover Storyなる一書まで献上され、“The Adams and Christie styles were deemed a perfect match.”(同書ジャケット折り返し)等々、引用する賛辞には事欠かない状況。他方、Joseph Lombarderoの方はと言えば——。今日現在、私が
Joseph Lombarderoの作品 と「鑑定」した在庫は23冊22タイトル。この内、J. Lombarderoと記載のあるものが3点、なぜかJoseph L
ambarderoと記載されたものが1点。イラストレーションにJ.L.とサインされたものが2点。Dell版のAgatha ChristieのPBシリーズはと言えば——すべて「描き人知らず」……。