88. History of, A History of, The History of
Q. 論文の題名として,次の3つのうちでどれがいちばん適当でしょうか.冠詞の種類,有無によって何か意味上の違いがあるのでしょうか.
(1) History of European Civilizaton
(2) A History of European Civilzation
(3) The History of European Civilization
Ans. (2) が一番よいと思います.(1) も (3) も間違いではありません.3つの形について説明しましょう.
(1) History of European Civilization
たとえば Trevelyan 著の歴史はこの形式の書名で,
History of England です.一般的に言って
of-Phrase を伴う名詞が無冠詞で用いられるのは,見出し,呼びかけなど簡略を必要とする場合に多いのです.(略)
(2) A History of European Civilization
題名として最も普通な形です.A History of ... といえば「...に関する歴史の本(の一つ)」で,上記の本の表題は a book dealing with the history of European civilaization というほどの意味です.
J. R. Green の書いた本に
A Short History of the English People という本がありますが,英国民の歴史を書いたものとしてこれもその一つ,といった控え目な意味を持っています.A Study of ... も同様で,題名として良く使われます.(略)
(3) The History of European Civilization
このように定冠詞がついた場合,2つのことが考えられます.一つは,一般に「ヨーロッパ文明の歴史」を表す場合です.The history of Europe といえば通常「ヨーロッパの歴史」(=European history)のことです.しかし表題として使えば,(2) の不定冠詞の場合と違って,「欧州文明の唯一の(または代表的な)歴史(書)」といった意味で,衒学的な感じを与えるおそれがありますので,一般には避けられるようです.しかし,有名な Macaulay の歴史は
The History of England であります.(略)

長々と引用したけれど——つまり、
The Encyclopedia of Science Fictionは、Encyclopedia of Science Fictionとしてもよかったし、An Encyclopedia of Science Fictionとするテもあった。しかし、Peter Nicholls以下、編纂スタッフは、
あえて「衒学的な感じを与えるおそれが」ある
The Encyclopedia of Science Fictionを選んだ。なぜなら、自分たちの本は、
それに値する内容だから——と、まあ、そういうことなのだろうけれど、実は、もう少し別の可能性——言うならば、
好むと好まざるとに関わらず、そうせざるを得ない“大人の事情”があった——そういう可能性が、ある。と言うのも、同書刊行の前年(1978年)、その名もEncyclopedia of Science Fiction(edited by Robert Holdstock, Octopus Books)なる書物が既に刊行されておったのだヨ。
で、この二冊だけでも十分、事態は混線気味なのだけれど、ここにもう一冊(!)、The
Visual Encyclopedia of Science Fiction(edited by Brian Ash, Pan Books)。刊行は1977年。そう、Encyclopedia of Science Fiction刊行のさらに一年前。この三冊のThe Encyclopedias(デスメタル系あたりのバンド名にありそう?)、出版をめぐってはどのようなbackstage dealingがあったのかは知る由もないのだけれど——でも、色々あったんだろーなー。色々あって、それぞれが、それぞれのタイトルに落ち着いた。もしかしたら、それぞれの編集部が希望するタイトルを出し合って、バッティングした場合、編集者同士のくじ引きで決着——なーんて場面さえあったのでは。そんな妄想が膨らむほど、この三冊のタイトル、合ってないんですよねぇ、中味と。たとえば、この三冊の中で最も図版が豊富(=ヴィジュアル)なのはどれ? 当然、The
Visual Encyclopedia of Science Fictionだと思いますよね。確かに、それなりに図版も豊富ではあるんだけれど、大半が白黒で必ずしも“目の歓び”に奉仕する編集とはなっていない。むしろ、全編フルカラーでサイズも縦30.6cm、横22.2cmと画集ばりの迫力を誇るEncyclopedia of Science Fictionこそ、全編これ“目の歓び”に満ち溢れた
見る百科全書。そう、この本こそ、The
Visual Encyclopedia of Science Fictionというタイトルにふさわしい。
でも、どういう事情だかは知らないけれど、The Encyclopedias 1号がひと足早くそのタイトルを使ってしまったンだ。で、The Encyclopedias 2号としてはやむなく肝心要の“Visual”を取ったEncyclopedia of Science Fictionと名乗ることにした(頭の定冠詞を省いたのは、イマイチ、このタイトルに自信を持てない編纂スタッフの躊躇の現れ?)。さて、こうなると、The Encyclopedias 3号としてはどうしたものか。そりゃー、もう、ここは断固、頭に定冠詞をくっ付けて差別化を図るしかないじゃないか。たとえそれで「衒学的な感じを与える」ことになろうとも、だヨ。第一、そもそもオレ様はジャンルSFの「唯一の(または代表的な)」生き字引(1980年、ヒューゴー賞の最優秀ノンフィクション書籍部門を受賞したのはこのオレ様)、衒学的で何が悪い——そう、居直ったのかどうかまでは、定かではない……。