The Third...
ペルー生まれなんだそうだ。従って、母国語はスペイン語。名前もスペイン語風に「ボリス・ヴァレイホ」と発音するのがイケテルのかな? ともあれ、そのBoris
Vallejo
なんだけれど……かつてこの日本にその「原画の八割が収蔵されている」一大コレクションが存在したことをご存知だろうか? 場所は、東京都中央区日本橋の旧ツムラビル(現スターツ八重洲中央ビル)。その「華麗なファンタジイ空間」へ「SFM編集部を含めた総勢14名」からなる1個小隊を率いて突入(?)した「宇宙軍大元帥」こと野田昌宏氏による「『ツムラ・コレクション』訪問記」(『SFマガジン』1996年3月号)より引けば——
津村夫妻に迎えられて展示室に足を踏み入れた途端、想像を遥かに超える華麗な空間の展開に、ただ激しく息を呑む皆の気配だけがあたりを包んだ……。
銀座通りの喧騒からほんの壁一枚隔てて構築された素晴らしいSF/ファンタジイ空間は、めくるめく色彩の渦となって我々に迫って来る……。
この「ツムラ・コレクション」、株式会社ツムラの三代目(当時の肩書きは「会長」)が個人で収集したものを、創業の地でもある日本橋の自社ビルで公開。「個人美術館、それも外国映画などによく出て来る大富豪のコレクターが命よりも大切な収集品を自分好みの最高な環境にディスプレイして愛玩している……という、まさにあの乗り」(同)。この三代目氏、バンジョーの世界的コレクターとしても知られ、Banjos: the Tsumura Collectionなる一書も上梓。野田大元帥によれば「バンジョー、ディキシー、アームストロング……という幅広いアメリカ・ポピュラー・カルチャーの延長としてのSF空間にボリス・ヴァレイホ……というのが実に決まっている」のだとか。「な? 判るだろう?/ここにエムシュウィーラーが来たのでは違うのだ。ロバート・マッコールでもない。/まぁ、フラゼッタなら悪くないが、やはりぴたりとは決まらない。/ちょっとだけ品が良過ぎる。/どうしても、ここはボリスなのである……!」。
うーむ、エムシュウィーラー(Ed Emshwiller)やロバート・マッコール(Robert McCall)ではダメだと言う理由がイマイチよく分からないのだけれど(しかし、James Avatiでないことだけは確か。尾崎俊介著『紙表紙の誘惑』には「晩年を迎えたアヴァティが、経済的な理由から自分の所有している表紙絵の原画の一部を売却することにしたため、彼の表紙絵の愛好者の間で一種のオークションを開催することになった」経緯について紹介。その結果、著者もMyron S. Kaufmannという作家のRemember Me to God, Singet Books T1578の表紙絵の原画を入手したと言うのだけれど——その作風といい、原画流出の経緯といい、「華麗なファンタジイ空間」とはあまりにも不釣り合い)、とは言え、ものには勢いと言うものがある。「な? 判るだろう?」と問われれば、「判る、判る」と二つ返事で同調して——そう、どうしても、ここはボリスなのである(それも、「ボリス・ヴァレイホ」。まかり間違っても「ボリス・ヴァレイジョ」と発音してはイケません)……。
ツムラ事件 野田昌宏一行がツムラビルを訪問したのは1995年12月。しかし、それから一年も経たない1996年10月、株式会社ツムラでは巨額背任事件が発覚。連結子会社への不正債務保証で本社に70億円の損害を与えたとして商法の特別背任罪に問われた津村昭会長ら5人が逮捕。その後、同社は創業以来の同族経営体制を一新。創業者一族以外からはじめて社長に就任した現社長の下、津村昭会長(1976年から95年まで社長)時代に推進した多角化路線を転換、保有資産の整理にも着手。2007年には「ツムラ・コレクション」を展示した八重洲のツムラビルも売却。「売家と唐様で書く三代目」。あゝ、あの「華麗なファンタジイ空間」は、今……?
Posted: Wed - July 28, 2010 at 10:23 PM |